これが有効な中小企業の戦い方なのではと考えている。
神奈川県相模原市に本社を構えるマイクロテック・ラボラトリー株式会社(以下、MTL社)は、ロータリエンコーダやACサーボモータなど、回転計測・制御機器の専業メーカーだ。自社で一貫して、企画・設計から製造、販売、サポートまでを対応。製造はISO9001/14001認証を取得した国内工場ですべて行っている。
MTL社の主力製品であるロータリーエンコーダは、機械系と電気系の橋渡しとして重要な役割を持つ制御機器のひとつだ。同社のエンコーダの最大の特長は高分解能。高精度の位置決めなどに活用することが可能だ。現在の顧客は、中小メーカーや研究所、大学等が中心で、製品ラインナップの多様性に加え、仕様やロット台数などの柔軟性を評価する声も多い。
1981年に創業した同社は、現在70名。その内、セールス・マーケティング関連業務に携わっているのが8名だ。今回、アペルザでは、営業部 課長の逸見氏と、同係長の平氏に、MTL社におけるセールス・マーケティングへの『アペルザ』の活用状況について話を聞いた。
― 2018年からアペルザをご活用いただいています。採用に至った背景を聞かせていただけますか。
逸見:実は当時、別の製造業専門メディアからも広告サービスの活用提案が来ていました。でも、そっちはお断りしました。我々の顧客アプローチの考え方は、「ユーザーのレベル別に入口を設けること」だったからです。
我々の製品はニッチです。だから、我々の製品が持っている特長やカテゴリ。例えば、小型サーボとか小型トルクモータとか、そのようなキーワードで検索する人とは、いずれ出会うのです。どういうことかと言うと、“モノ”を探している人であれば、自ら検索をするし、そのキーワードが具体的になればなるほど、結果として我々のホームページにたどり着く。自社のSEOが、そういう人たちをターゲットにしているので、それで十分来るだろうということです。
今我々がアプローチしたいのは、まだそれが具体化されていない人たち。例えば「ロボット 自作」で検索するような、まだ大枠だけで技術的なアイデアがない。抽象的というか、「これからこんなことをしたい」というぼんやりしたキーワード。つまり“コト”レベルのお客様に対して、到達できる道筋が欲しかったんです。そこにどんな手段が有効かと考えたとき、アペルザはすべての条件を満たしていました。
この資料は、当時社内でアペルザの採用を検討していた際に作ったものです。左側は依然として強力な手段ではありますが、今後ここがさらに伸びるということは期待できない。一方で、右側は伸びしろがあるところ。自社ホームページ、アペルザ、そして展示会の3つだと考えました。実際、3つ目に挙げた“展示会”は、今現在も有効な引き合い獲得の手段です。実際、ユーザーがどう情報収集しているかと考えると、展示会は広く情報が取れるし、ホットな情報もわかるから効率は良さそう。でも、展示会にはひとつだけ大きな欠点があったんです。
アペルザを見て感じた、オンライン展示会の可能性。
これが有効な中小企業の戦い方なのではと考えている。
逸見:専門展示会の多くは1年に1回です。でも、ユーザーからすれば展示会のタイミングは必ずしも買うタイミングじゃないので、検索したタイミングでちょうどいい展示会が開催されているとは限らない。でも、アペルザの『展示会連動特集』なら、去年のでも一昨年のでも、ストックされるライブラリとしてWebがある。いわば“オンライン展示会”です。まだ具体的な“モノ”まで至っていない、間口が広い探し方ができるという展示会の利点と、インターネット検索の“いいとこ取り”をしていたのがアペルザでした。これがアペルザを採用した理由です。
平:つい最近も「1年前の展示会で見たんだけど……」という話があったりするんですが、実際に展示会のタイミングで「これがほしい!」と言う人は本当にレアケース。アペルザの『展示会連動特集』なら、過去に掲載してもらったものも活きるし、ユーザーも情報をどんどん見ていけば、「あれ、MTLって毎回でてる」って気付いていただける。そこからうちのページに来てもらえれば、こんなものに最適ですよ、とかアプローチができる。
逸見:いわゆる検索エンジン対策は、しっかりやろうと思うとお金がかかります。特に、リソースも限られる中小企業では、すべての検索キーワードを全方位的に対策することは難しい。中小企業で、特徴のある商品開発、オンリーワンを目指したものづくりをしているならば、“モノ”レベルの、自社の製品の特徴を表すキーワードで対策をするほうが優先です。
弊社においても、「DDモータ」、「小型サーボモータ」といったキーワードでは対策ができています。一方で「ロボット自作 モータ」、「生産設備 モータ」のような、“コト”レベルのふわっとしたキーワードは対策が手薄にならざるを得ません。そこを補完してくれるのがアペルザだと考えています。製品が差別化できているからこそ、自社のホームページでは、グーッと入っていったところのキーワードに絞って取っていくし、アペルザでは間口を広げたアプローチをする。これが有効な中小企業の戦い方なのではと考えています。
eコマースによって業務が効率化され、利益率も高くなっている。
始めてみて気付いたのは、もっと“新しいチャレンジ”ができるということ。
― 最近は『アペルザ eコマース』もご活用されていると聞いています。
逸見:弊社もはじめはアペルザの活用用途は、認知・周知活動、リード獲得がメインでした。昨年から『アペルザ eコマース(以下、EC)』がサービス開始し、活用を始めています。ユーザー側の目線に立ってみると、展示会名から商品まで辿りつき、興味を持つところで終了ではなく、購入(eコマース)まで行ける。Webが活用できる時代だからこその利便性だと思います。我々側の視点でも、裾野の、ふわっとしたところから、販売まで完結させられる。認知目標だけでなく、売上目標も掲げられるので、モチベーションもあがります。
平:ECを活用しはじめたことで、「利益率」と「業務効率」という2つの点で、メリットを享受することができています。現在弊社のECのページに掲載されている製品は、すべて“定価”です。これまで通り口座を開設して、直接取引をする場合には、定価の80%で出していますが、問い合わせをいただいて、見積もりを返すときに、新規小口案件に対しては、ECのページのURLを入れて返しています。「少し高いですけど、こちらならカードでも買えますよ」と、お客様に選ばせる形にしています。もちろん、納期はどちらでも一緒です。
どう考えても80%のほうが安いのですが、それでもECからクレジットカードで買うケースが一定数あります。実は、お客様側では社内の購入稟議などの手続きや、部門費用の計上の問題などで、通常のお取引のほうが逆にややこしく、ECからカードで購入してしまうほうが楽な場合があるんです。
商社が常駐しているような会社の場合は、彼らに言えば買ってきてくれるので、そんなことはないかもしれませんが、社内システムがうまく構築されていなかったり、社内手続きに面倒な部分があったりすると、ECが重宝される。しかも、我々からすれば(アペルザに対する手数料を差し引いても)、10%は利益がアップするので、これは完全なる価値だと思っています。いっそのこと新規の窓口は全部ここに置き換えていきたいぐらい(笑)。
逸見:特にリピートのお客様は完全型式で検索されるので、3,000種類近くある既存の型式は、大変でしたが全部登録しました(笑)。現在は自社のホームページからもリンクさせています。
当時、アペルザを導入した際、販売をeコマースに置き換えた場合に、対象となる取引がどれだけあるかを見積もりました。販売手数料を差し引いても1割アップ。それらをすべてここ(アペルザ)で買ってくださいと案内した場合の、年間での利益想定が算出できましたので、やりましょうと社内を説得した記憶がある。
平:2つ目の「業務効率」ですが、アペルザを通して販売した場合、アペルザが間に入る形になります。弊社とアペルザの間での取引という形になりますので、アペルザの口座開設さえしてしまえば、あとはお客様ごとの得意先登録が不要になります。入金についても同様です。入金は注文ごとに個別ではなく、注文があった分を例えば10社なら10社分まとめてもらえるから、入金確認の作業も楽になるんです。eコマースによって利益率だけでなく、業務も効率化されている印象があります。
逸見:これは副産物ですが、ECを始めてから、施策を能動的にやるようになったのは大きな変化です。これまで自社ホームページが中心だったとき、ホームページはあくまで受け皿なので、基本的に受動的でした。今はECを始めて半年ぐらい、まだまだ助走期間だと思っていますが、ECができたことで、能動的に販売に結びつける施策が作れるようになりました。
― 具体的にはどのような施策でしょうか。
逸見:まだまだこれからですが、2つあります。ひとつは、「パッケージ化」です。顧客単価をあげていこうと思ったら、このモータに他のギアとか他のセンサーとかをくっつけるといいセンサーができる。それをパッケージ化して売りたい。でも、弊社はモータメーカーです。なので、パッケージに含まれる他社の製品については品質保証ができない。これまでは「保証できるのはモータだけなのに、パッケージ化したら、他社の製品まで面倒みないといけなくなる、トラブルシューティングしないといけなくなる、そこまでできるのだろうか?」と考えてしまい、踏み出せずにいました。
でも今は違います。Webに動画を掲載し、「MTLの製品を使ってこんなことが実現できた」というのを出すようにした。動画の説明文には、「このパーツとこのパーツを使って……」といった“レシピ”を公開して、最終的にどんなものができるのかという、“実験の動画”を公開しました。あくまで実験として、保証の範囲も説明した上で、そこからEC内の限定公開の販売ページへ誘導するという流れです。
公式サイトから普通にいったらモータしか買えない。限定公開の販売ページは、その動画の説明文にあるリンクからしか見ることができないので、その販売ページを見る人は、確実に動画を見て、その説明文を読んだ人だけです。「説明して十分理解してから買ってもらう」という手順を、Web上で実現することで、これまでの懸念を払拭することができます。
楽をするための努力は惜しみません(笑)。それに間口も広げたい。だから、最初(の動画を作成するなど)は頑張りますが、それ以降はこのページに頑張ってもらう。今はすべて研究所のほうに行ってしまっているのでここにはありませんが、このようなデモ機の製作自体は、展示会用途などもあり普段から行っています。多分どこの会社も経験あると思いますが、実際に展示会でデモ機を展示していると「これで300万、400万だったら買うよ」という話をいただいたりします。それで実際に売るということはしていませんが、展示会だけでなく、Webの動画を見て「(これができるなら)こんな実験をしてみたい」という人が現れれば、新たな引き合いに繋がります。
eコマースによって実現されるWin-Winもある。
我々の“企業努力”が、ちゃんと“顧客満足”につながる。
逸見:もうひとつの施策が“特価”、利益は減りますが、いわゆる「期末セール」です。実はこれに関連するのが“即納”です。需要があるとは思っています。しかし、いままで対応してきませんでした。会社の方針として、リードタイムは捨てていたのです。
何故かというと、「今すぐ欲しい」は大抵「壊れた」なんです。でも、定期的に買ってくれているようなところなら、そんなことは起こらないはず。だとすると、そのようなお客様がどれだけいるのか。会社として対応するだけの利益が取れるのか。これまで38年、エンコーダの事業をやってきて、そういう考えになっていました。
新たに始めたモータの事業では、逆にその学びもあるからこそ種類を減らし、売れ筋はある程度在庫しておいて即日出荷したいと考えました。実際、アペルザ経由でも「即日出荷できないか」という相談を受けたことがあり、その思いは強くなりました。当然、決算の問題などもあるため、社内ではネガティブな意見が出ます。ここは社内調整、連携が必要な部分です。
しかし、ECを使って「期末セール」で、いらない在庫を消すことができるなら、即納を希望するユーザーに対応でき、期末セールでは、コストで踏みとどまっていた人や、予算消化などのニーズが取り込める。お客様にとっても当社にとってもWin-Winになる。我々の“企業努力”が、ちゃんと“顧客満足”につながる、Win-Winの形だと思います。
平:あと、これはあくまで一般論としてですが、ECを通じて定価を出していくことによる、“価格の適正化”という効果もあるんじゃないかと思います。
― “価格の適正化”とはどういうことでしょうか?
逸見:我々はメーカーなので、もちろん安く作ることもミッションです。ですが、せっかく安く作っても、市場価格でいくと、例えば、定価が10万円の製品が最終卸しを通るときには極端な話、50万になっているということもありえる。そしてそれをメーカー側ではコントロールできない。
平:お客様からすれば、その50万の製品を他社の20万の製品と比べることになる。本来は10万円の製品が、中間流通でのマージンによって価格が上がってしまい、その結果「見積もりで負ける」ということが、この業界では一定程度起きていると思う。
まだ始めたばかりではありますが、我々はWebで定価を出します。定価をアナウンスすることで、その適正化が図れる効果があるのではないかと感じているからです。我々が“企業努力”しているのに、コントロールできないところで値段が上がってしまう。それによって直接的な取引をしていないのに、「高い」という風評がついてしまうのはメーカーとしても本望ではありません。自分が知っている限りでも、3社や4社が間に挟まっているケースはある。そういうケースであれば確実に定価のほうが安くなる。
ネガティブな反応はすべて、逸見と自分が吸収してきた。
でも今はもう何も言われない。成果を出すから。
― 逆に、アペルザの導入にあたって苦労したことなどはありますか?
逸見:我々に限らず、社内の調整は大変だと思う。特に理由はないけどネガティブな反応する、というのは本当にあった。新しいことだから。でも「たいしたことないからとりあえずやろう!」と推し進めて、一度受注になれば後はもう何も言われない。
平:社内の反対みたいなのは、逸見と僕のところで全部吸収して、もう勝手に1台目を売ってしまった、という感じですね。なぜかはよくわからないけど、「直販したくない」というか、「ECで売りたくない」みたいな反応。そういう新しいことを始めたくないみたいな社内の声で苦労している人は多いと思う。
― そのような社内の声を乗り越えるために必要なことはありますか?
逸見:チャレンジャーがいることですかね。……自分なんですけど(笑)。それでうまくいったらもう言われない。売上も利益も伸びるから。懸念は払拭されたでしょと。
実は一度、諦めた。
でもアペルザを使って、そして、平とならやれると思った。
逸見:苦労している人は本当に多いと思う。だって私も、一度諦めてますよ。自分が営業だったとき。当時、ECサイト最初やろうと思った時は、ネガティブな言葉ですけど、「自分ではできない」と思って、やめちゃった経緯があるんです。
一方、平は元々は調達部門で、在庫をコントロールする、システム的なコアをやっていたんです。その彼が営業部に来たんです。そこで、アペルザ eコマースの話がきた。(平が)実務ができて、連携がとれたから、やれると思った。ふたりでやっちゃおうって言って、それで今のECができました。両方を監督できる偉い人が決裁してくれるならいいんですけど、もしそういう人がいたとしても、実際にはこういう新しいことってやりたがらないということもあると思うので。
平:だから実際導入するまでのハードルはあると思う。自分たちの場合は、「たいしたことないよ」と言い切って、社内ではやってしまう。まだ立ち上げ途中ですけど、実際、実務的なところは、アペルザさんもかなりサポートに入ってくれたので、その点はすごく助かりました。
逸見:あと大事なのは、数字に価値をつけること。そして、中長期的に取り組むこと。うまくいかない人たちは、それができていないケースが多い。成果を「売れました」にするのは簡単だし明確だが、一年じゃ結果は出ないし、何事も一年でうまくいくなんてありえない。一年目はチャレンジ、そのなかでゴールを作って継続的にやることが重要。そうしないとその一年の苦労がすべて水の泡になる。
展示会だって即売会をやっているわけじゃないから、いつ売れるかなんてわからない。だから、多くの企業で(展示会を)認知獲得の活動と位置づけて、「名刺1枚いくら(の価値がある)」としている。ひとつひとつの数字に価値をつけること。そうじゃないと、とてもじゃないが継続できない。もし、一年で「売れない」からと言って、せっかく作ったページを全部消してしまったら、それは自分たちにとってもアペルザにとっても損。
これまでの暗黙の文化を裏返せるのは、実績だけ。
一緒に成長していこうと思ってアペルザを選んだ。
― アペルザを使っていて困ったこと、不満な点などはありますか?
平:もっとこうしてほしいとか、こうなっていたらいいなと思うことは、しつこく伝えてるほうだと思う(笑)。例えば、昨年の12月に、サイト上での在庫表示(が分かりにくいこと)に関して、お客様から問い合わせをもらったときも、それをアペルザに伝えて、直してもらった。
まだまだアペルザも助走、立ち上げの段階だと思うんですけど。自分たちも新しい製品を開発するし、その間にアペルザもサービスを開発して、認知度をあげ、SEO対策もして。
逸見:時代が変わっていくなかで、自分たち自身も含めて、これまでのやり方を変えていかないといけないと思うんです。でも、これまでの慣習や文化を裏返せるのは実績だけ。我々もアペルザも、ひとつずつ、順番にやっていけばいいと思うんです。一緒に成長していこうと思ってアペルザを選んだので。アペルザも以前はそこまでメンバーも多くなかったと思う。でも、そこからの成長率を見て、将来性を信じた。
だから、もっとみんなが「アペルザ」って名前を知っていたらいいなとは思う。自分も展示会でチラシを配るときには、特に若い人に向けては「アペルザで調べたら便利だよ」と教えてあげている。もちろん(お客様の対応で)忙しくなると、そこまで手が回らないですけど。だから、アペルザにも、もっと知ってもらえるようにがんばってほしい。