何かを学ぶときはまず「記憶」から
「前に教えたよね」
口に出すか出さないかは別として、相手に対してそう思ったこと、あるいはそう思われたかもしれない、と冷や汗をかいた経験は、誰しもあるのではないでしょうか。
新しいテクノロジー、新しい専門用語が次々と生まれるなか、ビジネスの日常では何かを学ぶ、教えるという必要性に駆られています。しかしながら中途入社が多い組織、社内異動が多い組織では足並みを揃えて学習することは難しく、事業や職種に関する知識水準に不均衡が生まれがちです。人材流動性が高まる昨今、多くの組織がこの「前提知識が揃っていない」という課題に直面しています。
そこで今回は、学習プロセスに関する認知心理学のヒントをご紹介します。
学習目標と現在地を確認
学校教育の設計においては、教育目標を学習対象領域と学習行動のプロセスに分類して整理するのですが、これが社会人の学習においても応用することができます。学習している自分自身、あるいは教えようとしている相手がどの段階にあるかを把握しながら学習する(学習させる)ことで、より効果的な成長を期待できます。
この分類体系は、ベンジャミン・ブルームの理論をもとに、デビッド・クラスウォールやローリン・アンダーソンらが現代の教育現場に合わせて再構成したもので、「改訂版ブルームのタキソノミー」と呼ばれています。今回はこのなかから、「学習行動のプロセス」における6段階について見ていきたいと思います。
6段階の学習行動のプロセス
1.記憶する: 用語や事実、基本的な概念を頭に入れ、思い出すことができる状態。
2.理解する: 情報の意味を把握し、自分の言葉で言い換えたり、他人に説明したりできる状態。
3.応用する: 記憶し、理解した知識を、実際の業務や新しい状況にあてはめて実践できる状態。
4.分析する: ものごとを要素に分解し、それぞれの関係性や原因と結果を論理的に整理できる状態。
5.評価する: 明確な基準をもとに、情報や解決策の価値、その妥当性を判断できる状態。
6.創造する: 複数の要素を組み合わせて、新しいアイデアやしくみを生み出す状態。
つまるところ「記憶」が入り口
6段階のプロセスの最初は「記憶する」こと。ずばり、記憶することから逃れていては、理解することも応用することもできないということです。
コンテンツや学習の手段が氾濫している昨今、どの動画がわかりやすいのか、誰の話が聞きやすいのか、どのような研修形式がよいのかという、知識を提供する側の質に目を向けがちです。しかしどのような教材を用いたとしても、学習の土台となる「記憶する」というプロセスを避けて通ることはできないのです。
AI時代にもなお記憶は必要
どんな情報にもアクセスでき、AIがすぐに答えてくれる時代。学習理論においても、情報そのものを記憶するのではなく、情報がどこにあるのかを記憶しておくことが重要だとする「コネクティビズム」という考え方があります。しかしこれも、AIに質問するための適切なキーワードは記憶のストックに持っておく必要があり、また目の前の情報の価値を正しく認識して結びつけることができないという点でも、やはり記憶は不要だということにはなりません。
思い出す間もなくスマホを手に取るような「記憶のアウトソース」が習慣化してしまうと、気づいたときには理解力や応用力が身についていない、ということになりかねません。基礎的な用語や概念が記憶として脳に定着していなければ、それを引き出してどう使うか、目の前のものごとをどう判断するかという思考にリソースを割くことができないからです。
理解の前段階に記憶がある
ビジネスの場面では顧客を、市場を、制度や技術を「理解する」という目標やタスクが掲げられることがあると思います。しかしこの6段階のプロセスに従えば、「理解」よりも前にかならず「記憶」があります。泥臭く聞こえるかもしれませんが、理解しようとするよりも前に、まずは対象となる基本的な用語や概念について、暗記するつもりで学習に取り組んでみてはいかがでしょうか。
「前にも教えたよね」という状況はまさに、記憶のプロセスが抜け落ちているから生じることなのです。
さて、お客さまが取り扱っている商品名、覚えていますか?